税理士さん、社労士さんが経営コンサルティングに挑戦!はいいけれど

最近、税理士・社会保険労務士など士業の方々の中で、“これからは経営コンサルティングをやっていこう”という機運が高まっているようです。これはとても素晴らしいことだと思いますし、もっと早く取り組んでいてもおかしくないと思います。IT先進国といわれているエストニアで従来の税理業務は消滅したと言われており、日本でも記帳会計や決算業務代行などは先細りすると考えるべきでしょう。それなら従来の業務の時間を効率化しつつ、新たなサービスを見出して準備する必要があります。そして法人向けにサービス提供されてきた士業の方にとっては“経営コンサルティング”は親和性の高い新サービスだと思います。

従来の延長線上でのスキルでは経営コンサルティングで成果は出ない

ところが困ったことがあります。一部の税理士さん達の間で、“経験なしでもコンサルティングをやれば顧問料が増える”とか“事前の準備は不要なので忙しい税理士にピッタリ”“30分の面談だけでお客様の売上アップに貢献”などの甘い話が一部で拡がっていることるようです。ここ数年急増した怪しい講座ビジネスならともかく、税理士という国家資格を持っている人たちまでそんな講座を主催して、先々に不安を感じるご同業の税理士さんを相手に講座を販売しているのを見て寂しい気持ちになりました。経営コンサルタントとして28年間活動してきた私の経験から言えば、そんな甘い気持ちでお客様と向き合うこと自体が経営上の課題を抱える顧客に失礼な話ですし、選ばれ続けることはあり得ないと思います。私も駆け出しの頃は一睡もせずに準備して、朝7時にはホテルをチャックアウトして客先に向かい、夕方まで先方の経営会議の進行役を行って、帰りの飛行機の中で爆睡する、そんな日がかなりありました。

“一時しのぎの売上向上策”は、“一時しのぎ”でしかない

上記のような甘い話が拡がっていることを、困ったものだと思う理由は2つあります。1つ目の理由は、“一時しのぎの売上向上策は、一時しのぎでしかない“ということです。一時的に売上を上げる方法はいくつもあります。そして一時的に効果がありますが、すぐに効果がなくなります。そしてその後副作用に苦しむことになります。そのメカニズムは経営学を少しでも学んだ方はわかっているので、そのような一時しのぎの施策を経営者が考えていたら必死で止めようとするものです。そして副作用が少なく好業績が続く期待ができる施策はないものか、それを見つけ出すために他社の成功例や失敗例を調べて共有したり、経営学のセオリーに立ち戻ってみたりして試行錯誤するわけです。考えてみて下さい。もしも、皆さんの経営コンサルティングを導入したらすぐに売上がドンと上がったけど、半年後には元に戻り、その一年後に倒産した、となったらどうしますか?お客様に申し訳ないだけでなく、その噂はその業界・その地域にすぐに拡がって、今後の活動に支障が出るのが見えています。

藁をも掴もうとしている経営者に藁を売って稼ぐ?

2つ目の理由は、時間をかけないで短時間で稼ぐ副業でという姿勢はお客様にも透けて見え、準備をしていなければ真剣さがないことはすぐにバレるということです。それでも動いてくれるのは自信をなくして自分で考えたり意思決定したりすることが怖くなっている経営者だけです。厳しい現実と向き合いながら会社と社員を守ろうと日々奮闘している経営者なら、論理的にも感情的にも納得がいかない限りこちらの言うことは聞きません。「いや、相手は大手企業じゃなくて零細企業の社長だから、これくらいでも大丈夫ですよ」というのは零細企業の経営者に対してあまりにも失礼なお話です。そんな気持ちで取り組んでいると、顧客企業にとってもコンサルティングを提供する側にとっても望ましくない結末を迎えます。“藁をも掴もうとしている経営者に、藁を差し出してお金を稼ぐ”のは社会には必要のない仕事だと私はおもっています。

副業ではなく、プロとして、二刀流で戦うという選択

未経験のサービスを提供するのですから、しっかり学びしっかり準備したとして初めのうちは失敗もするし、はじめのうちはクレームも来ます。しかし少なくともプロとして真摯にお客様と向き合っていればチャンスはまたやってきます。従来の士業の業務と経営コンサルティングの“二刀流”でやっていくという選択をしたのなら、いきなり佐々木小次郎や大谷選手のレベルにはなれなくても、スキルと経験を磨く意外の早道はありません。これまでも狭き門を乗り越えてきた税理士の方なら出来るはずです。 (2025年1月20日)

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