2024年5月。久しぶりに韓国の新幹線KTXに乗った。前回は3年前、ちょうどコロナの時期に仁川空港から移送されるときに強制的に乗った(乗せられた)ため気が付かなかったのだが、今回日本の新幹線との決定的な違いに気が付いた。それは“韓国中の新幹線駅には改札がない”ということだ。

 具体的に言えば、スマホで予約したあと駅に向かい、プラットフォームに向かい、予約した新幹線に乗って座席に座るまでの間、誰にも切符を見せる場面はなく、タッチするような機械もゲートもない。席に座った後車掌が回ってきて切符を見せるということもない。そして目的の駅に着いてから駅を出るまでの間も切符を見せたりタッチするような場面はない。要するに物理的には切符を買わずに乗って降りることができ、誰にもバレることはない、ということだ。万が一無銭乗車が発覚することがあればそれは犯罪であり罰金が課せられるらしいが、日本の常識からすれば改札なし検札なしは何とも不思議な感覚である。安全上の問題も治安の問題もこれまで起きてはいない。この“何もない”システムは海外のメディアもニュースで取り上げられたことがあるそうだ。

 韓国の新幹線は「そもそも新幹線に乗るのに切符も買わないで乗るような悪い人はいない、だから改札も検札もなくてよい」という考え方が根底にあるのだと思う。車掌は数名乗車はしているが、客席を回って検札するのではなく、困ったことに直面した乗客から呼び出し(スマホからボタン1つで車掌を呼び出しできる)があったときにサポートをすることになっている。

 一方で日本の新幹線は不正利用しないよう何重にもチェックする。そのために高額な改札システムを全駅に設置し、定期的にメンテナンスし、社内では車掌が各席を回って検札する。そのようなシステムの根底には「何重にもチェックしないと無銭乗車しようとする悪い人がする」というパラダイムが存在していると思う。

 韓国の新幹線と日本の新幹線。どちらが顧客満足度が高いか、またどちらが運営コストが安いのか、言うまでもない。そして韓国の新幹線の考え方から、改善・改革を具体的な方法を考える前に、まず根底にあるパラダイムを問い直すということをしないと、いつまでたってもよりよいサービス、よりよい経営に近づいていくことができないということを痛感した。日本の企業にはまだまだのびしろがあるのだ。

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2大坪 孝志、他1人