先生業としての経営コンサルタントが活躍していた
かつて、飲食業や建設業、小売流通業など、特定の業種・業態についての膨大な専門知識と最新の情報を掴んでいて、それを教えて高額の報酬を得るというコンサルタントの“先生”たちが活躍していた時代がありました。講演会には、参加費一人5~10万円といった金額でもその業種の大手企業の幹部たちが1000人近く集まって話を聞いていたようです。また、業績不振のラーメン屋さんにコンサルタントの“先生”がやってきて短期間に繁盛店にしてしまう、というテレビ番組を見たことがありますが、あの先生たちはラーメン店に特化した専門コンサルタントあり、“先生”です。つまり“先生”は正解を知っており、“先生の言う通りにやったらうまくいった”ので、企業は多額の報酬を支払っても十分に元がとれた、そんな時代がありました。
カリスマ専門コンサルタントの限界
ところが昨今、VUCAの時代と言われるように多くの業種・業界の状況は激変し、先行き不透明で、これまでの常識が通用しない時代に突入すると、“先生の言う通りやってもうまくいくとは限らない““先生の言っていることは過去の正解であって、これからの正解じゃないし、わが社の正解ではないよね”ということに多くの企業が気づき始めました。“先生業”としての経営コンサルタントはお見掛けしなくなってきました。
経営コンサルティングの2つのアプローチ
経営コンサルタントは一般に、何かを教えたりアドバイスする仕事だと思われていますが、実際にはアプローチの仕方によって2種類に分けられます。一つは前述の“専門コンサルタント”つまり“その業種・業界での先生たち”です。そしてもう一つは、専門知識を提供するのではなく答えを見つけるためのプロセスに介入して問題解決を導く“プロセス・コンサルタント”です。テレビに出演したり本を出版したりしないので一般には知られていないものの、実際には日本でも60年以上前から大手企業や中堅企業は頻繁に活用していました。おそらく一部のカリスマ先生を除けば、このプロセス・コンサルタントのほうが専門コンサルタントよりも稼いでいたと思いますし、今もたぶんそうではないかと思います(統計データがないので感覚でしかありませんが)。
プロセス・コンサルティングとは
プロセス・コンサルティングとは“課題もその解決もお客様がカギ握っている”という前提に立っています。そして顧客に対して謙虚に問いかけをしたり、フィードバックしたりしながら“顧客自身が本質的な課題に気づき、解決策を見出し、行動できるように援助する”というアプローチをします。具体的には「社内プロジェクト会議の進行役」「経営計画策定会議の支援」、1対1なら「エグゼクティブ・コーチング」など様々なサービスを提供しています。顧客との間ではプロセス・コンサルティングという表現を使いませんし、ワークショップの様子は外から見ると研修に似ている面もあるため、顧客の社内資料には「〇〇研修」と書いてあったりしますが、研修とプロセスコンサルテーションは目的が異なります。
今、経営者は“先生”としての経営コンサルタントを求めているか?
2025年、先行きはさらに不透明になってきている今、企業経営者の方たちは正解を教えてくれる先生を求めているでしょうか?少なくともインターネット上には自分が正解だといわんばかりのコンテンツを提供する人たちが溢れ返っています。そんな時代に、“先生”に大金を払って教えを乞うでしょうか?もしもそんな経営者がいるとすれば、経営に行き詰って自分で決められなくなってしまった一部の経営者か、起業したばかりで道に迷っているひとり経営者だけではないか、という気がします。現代の経営者は、自分たちが気づいていない課題に気づかせてくれたり、解決策を考える上でのヒントをくれたり、皆が納得のいく結論が出るように導いてくれたり、一緒に考えてくれることに価値を感じています。なのでプロセス・コンサルタントはお客様に対して“先生”として向き合うわけではなく、いつも近くであれこれ教えてくれる人ではなく、必要な時に問いかけをしてくれたり、それとなく気づかせてくれる人として接するのです。仮に顧客から“先生”として見られてしまうと、顧客と一緒に解を見つけていこうという対等の関係が崩れ、気持ちの上で教え教わる関係になってしまうため、成果を導くことが難しくなります。私自身はお客様先で、コンサルティングの仕事とは別に社員研修の講師も依頼されるケースが多々あったため、若い受講者の方たちからは「先生」と呼ばれることはありましたが、それ以外はさんづけで呼んで頂いていました。
税理士さん、社労士さんが経営コンサルティングに挑戦
最近、税理士・社会保険労務士など士業の方々の中で、“これからは経営コンサルティングをやっていこう”という機運が高まっているようです。これはとても素晴らしいことだと思いますし、法人顧客に対するサービスを提供してこられた税理士の方たちには親和性の高いサービスのように感じます。ただ、税理士の“先生”と呼ばれることに慣れ、先生として顧客と向き合うことに慣れているため、無意識のうちに“専門知識を教える・アドバイスする”というモードになりがちです。専門コンサルタントではなくプロセス・コンサルティングをやっていくつもりなら“先生業ではない”ということを意識して顧客と向き合うことはとても大事かと思います。(2021年1月10日)
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