今日、パーソナル・コーチを本業とされている方とお話する機会がありました。エグゼクティブ・コーチングのスキルトレーニングを提供する立場から参考にしたいと思い、ここ数カ月間、コーチを名乗る方々数名とお話する機会はあったものの、残念ながらほぼ全員がコーチングの素人だということがすぐにわかってガッカリが続いていました。ただ今日お話しした方は、話し方、口調、物腰から、一定以上の経験を積んでいることはすぐにわかったため、結局2時間近くあれこれと話し込んでしまいました。今日の話の中で私が一番役に立ったと感じたことは、改めて「コーチとしての“自己理解”には時間を割くことが大事」ということです。

人間はタマネギ。経験を重ねる毎に何層もの皮に覆われて核が見えなくなる

 私自身はエグゼクティブ・コーチングのトレーニングプログラムを短期集中で提供するために、自己理解を促す内容は短時間で終わりにしていました。ただ、もう少し深堀りしていくことは必要だ、と感じたのです。心理学では人間はタマネギのようなものだと例えることが多いですが、様々な経験を重ねていく毎に一枚一枚皮をまとうようりなり、ある時自分自身でも自分の核心の部分が見えなくなっていくもの。時々立ち止まって皮をはぎ、自分の核となる部分を見ることは大事だと思います。パーソナルコーチングであれエグゼクティブコーチングであれ、対話を価値あるものにするには、自分のレンズはどのような特徴を持っているか、何色なのか、を知っておかないと、相手が歪んで見えたり白いものが黒く見えたりします。そして最も大きいのは、自己理解を深めている人は、そうでない人と比べて言葉にはしにくい「安定感」「自然体」が感じられることです。

自己の行動を「仲間性行動」「統制行動」「開放性行動」の3つの軸で見る

 UCLAの心理学教授だった故W.シュッツ博士は、自己理解を「自己概念」「感情」「行動」の3つのレイヤーで理解しようとする研究(The Human Element)で有名ですが、一番外側にあって見えやすいのが「行動」です。人間の「行動」は大きく、「仲間性行動」「統制行動」「開放性行動」という3つの軸で表すことができるとし、この3つの軸を自己理解のための「道具」として使ってみると、自己についてこれまでとは異なる気づきが得られるはずです。

 例えば私の場合ですと、「仲間性行動」は高くも低くもなく、どちらも楽しむことができます。人と一緒でも一人でも不安になることがありません。「統制行動」は人に命令することは好きなほうですが、威張り散らすのは好きではありません。反対に、人から指示・命令されることは嫌いで(特に奥さんから大掃除を命じられた時は理由を見つけて拒否しようとします)、素直にハイとは言わないタイプです。「開放性行動」は、それほど感情表出をするほうではなく、むしろ感情を押し殺すことに慣れている気がします。もしかすると感情をオープンにすることに理由の定かではない不安(身の危険?)を感じるかもしれません。私自身はこれらの行動の特徴をある程度受け止めているつもりなので、特定の場所だけ、特定の人とだけ付き合う、特定の場所、特定の人を避ける、という偏った行動は少ないほうだと思っています。

自己理解が深まるほど感情も行動も“より柔軟”で“より自然”になる

 もしも参考になるようでしたら皆さんもタマネギの一番外側の「行動」という皮について、3つの軸を道具として振り返ってみては如何でしょうか。安心できるパートナーと一緒に行うともっと効果があると言われていますが、ご自分だけでも時間をとって自己分析をしてみると、より自然体で、より柔軟な行動が選択できることも体験できるはずです。

 次回は行動の内側にある「感情」についての自己理解モデルを紹介します。(2024年8月14日)

スキルの土台となる自己理解