カスタマーハラスメントという言葉を連日のように見かけるようになった。2023年には旅館業法が改正されカスタマーハラスメントを繰り返す顧客を宿泊拒否することができるようになり、ホテル・旅館業が次々とカスタマーハラスメント方針を発表。航空会社も6月にJALグループとANAグループが共同して「カスタマーハラスメント」に対する方針を策定し発表している。 しかしこのカスタマーハラスメント対策は、扱い方を一歩間違うと何の解決にもならないばかりかハラスメントを増幅させたり、経営の危機さえ招いたりするリスクが潜んでいる。

 まず、顧客からの正当な苦情でさえハラスメントとして見なして対応することでサービスの大幅な低下を招くことだ。先日エア・カナダで離陸前に機内が寒いため毛布を要求した顧客とCAとが口論になり、CAは警察に連絡。飛行機は駐機場に引き返しその乗客は降機を命じられた。ところが他の乗客も搭乗をボイコットし全員が降機したため、その便は欠航となった。安易にハラスメントルールを持ち出せば顧客からの不満・不信を招き、顧客喪失に繋がる。

 次に留意すべきなのは予約サイト等での誇大広告だ。ホテルでも飲食店でも予約サイトに掲載されている写真やサービス内容を見て予約した顧客が実際に現地に着いたら記載されていた内容と違っていれば当然苦情の対象になる。夏のリゾートでメンテナンスのためプールが使用できない期間があるならそれは予約サイトにその旨を明記すべきである。広告内容に誤りがあったのなら現地で丁寧にお詫びした上で、顧客の納得のいく代替案を示すなどの誠実な対応をする責任がある。不誠実な対応はカスタマーハラスメントを生む原因となる。

 さらに、ハラスメント行為を行った顧客に対して法的に拒否できるようになったとしても、顧客の苦情や要求を安易にハラスメントとして扱うと顧客の怒りをさらに増幅させる。さらに過激なハラスメントに繋がる可能性もあるし、SNSへの書き込みも止めようがない。

 経営者も従業員も、カスタマーハラスメント対策に焦点を当てる以前に、顧客に喜んで頂くにはどんな工夫ができるか、サービス提供者として落ち度はないかを振り返り、皆で改善していく努力が不可欠だ。顧客不満に繋がりそうな要素を洗い出し1つ1つ消していく努力こそハラスメントの発生可能性を小さくする。従業員への教育も重要だ。従業員の誤った顧客対応を見て見ぬふりをしていてはいつまでたってもカスタマーハラスメントの原因はなくならない。

 どのような事業でも持続可能な経営の原点は「顧客満足」である。それが実現できなければ従業員満足も財務的満足も実現できない。世の中には一定以上の割合で不条理な要求や悪質な行為をする人はいるだろう。しかしその原点から離れてしまうと経営の危機を招くということを念頭に置いておく必要がある。

Cabin Attendant
安易なカスハラ対策は逆効果 (写真はイメージです)