「カッコいい中堅社員になろう!」 

 「カッコいい中堅社員になろう」は先月、東京都のある業界団体主催の複数企業合同「中堅社員パワーアップ研修」の講師を弊社で担当させて頂いた時のサブタイトルである。昨年、入社して1年以内に辞めた経験を持つ複数の若者たちと雑談していた時に「労働条件で辞めたわけじゃなくて、そこにいた先輩たちが皆カッコ悪く見えて、ここにいるとああなっちゃうのかと思ったらもう出勤したくなくなった」と語っていたことがとても記憶に残っていたからである。アンケートや形式ばった調査では若者の離職の本当の理由などわからないが、利害関係のない間柄での雑談で出た意見は本音に近いだろうし、私自身も妙に頷ける発言だった。では、“カッコいい”中堅社員とはどんな中堅社員なのか? 勝手ながら以下の3つの要件に整理してみた。

企業の社会的存在意義をシンプルに理解している

 1つ目の要件は自分の仕事の社会的存在意義、いわゆるミッションをシンプルに理解していることだ。仕事というものは本来存在目的は2つあって、一つは給料を稼いで生活を支えること、もう1つは社会の中で誰かの役に立つ、つまりミッションを果たすことである。どちらが欠けてもその企業は長くは続かない。そして、明確な言葉になっていてもいなくても、全ての仕事にはミッションがあり、誰かの役に立っているから存在しているのだ。そのミッションをシンプルに認識していることが1つ目の要件だと思う。外科医なら「患者の命を救うこと」、物流会社なら「依頼された品物を大切に届けること」、経営コンサルタントなら「お客様がより豊かに、より持続可能になるための変革を支援すること」。ミッションを認識できていれば、現実的には十分果たせていなくても、ミッションを果たすためにどうすればよいか、何を改善すべきか、何を選択すべきかなどに日々か悩みつつも前進している。一方でミッションの認識がない場合はお金を稼ぐことだけが目的になってしまい、仕事はそのための手段でしかなくなる。そうすると顧客の目を欺く上げ底容器のお弁当を販売するとか、輸入牛を和牛と偽って提供するとか、排ガスのデータを改ざんして品質を偽って車を販売するとか、そういう手っ取り早い金儲け手段ばかり考えるのが仕事になる。顧客や社会を欺くようなことが自分の仕事だとすれば、生活のためには仕方がないのだと割り切ったとしてもイキイキと充実した表情で働き続けられる人は多くはないように思う。若手社員はそういう先輩の曇った表情から、ここにいてはいけないというメッセージを感じ取っているようにも思う。

4つの役割を認識している

 2つ目の要件は、中堅社員の4つの役割を認識できていること。4つの役割とは、①仕事の推進役、②上司の補佐役、③上下左右のパイプ役、④後輩の指導役、だ。それらの役割を十分果たせていなくても、まずはそれが自分の役割だと認識できていることがカッコいい中堅社員の条件だと思う。認識していれば、うまくできない時に反省もするし、先輩から謙虚に学ぼうという意識も働くが、それは自分の役割と認識していないふいとは反省も学習も必要性を感じない。適当にやって給料を貰えばよい、というカッコ悪い日々を過ごすことになる。

言うべきことを、言うべき時に、言うべき人に言える

 最後の要件は最大のハードルかも知れない。「言うべきことを、言うべき時に、言うべき人に言えて、かつ相手とシコリを残さない」ができていること。上司からおかしな指示、例えば危険を伴うような作業を命じられたり、顧客にバレたら激怒されるようなことを指示された時は、そんなことはやりません、と本人の前でキッパリ断れる先輩、効率のよくないやり方を指示されたら、こうすればもっと早くできるから変えませんか、と提案できる先輩はカッコいい。ズバリ言えば言うほど相手との間にシコリができるものだが、その日のうちにさりげなく缶コーヒーでも持っていって「先ほどは生意気言ってすみませんでした」と爽やかに頭を下げればよいのだ。言われた当人は「あいつは生意気だ」と呟きながらも、心の中ではあいつカッコいいじゃないか、と思うはずだ。一方で上司の前では「はい、わかりました」と従順なフリをしておいて裏では後輩に愚痴を言ったり、隠れて手を抜いていたり、和を大切にすべきだという綺麗ごとを言い訳に言うべきことを言えない先輩はカッコ悪い。

 新入社員の頃は文句も言わずハイといって言われた通りにやっていれば可愛がってもらえた。しかし中堅になったら嫌われようが何であろうが、上司・先輩たちがやっていることを否定して、よりよくなるための改善提案をするべきだと思う。何でもハイといって言われた通りにやる社員より、生意気に改善提案してくる社員のほうが、状況対応力があってイザというときに頼りになることはベテラン社員なら知っているものだ。

女性講師のメッセージは一味も二味も異なるインパクトがある

 昔に比べて、男性しかみかけなかった業界でも女性は増えている。今回の研修でも女性参加者がいることを聞いていたので、大阪在住の女性講師に依頼してミニ講義を担当して頂いた。男性と女性では物事を見る視点も異なれば感じ方も違うものなので男のメッセージだけでは限界もある。ご自分の中堅社員時代を思い出して、メッセージすべきと感じたことをそのまま話して頂ければ、とお願いした。感受性豊かでユーモアセンスと知性を兼ね備えたこの女性講師のメッセージは私とは一味も二味も異なるインパクトを受講者の方に与えてもらった。

ちょっとした言動の変化でも周囲に大きな影響を与える

 研修を1日受けた程度で受講者の行動が翌日からガラッと変わるということはないだろう。ただ何かのメッセージの一部でも頭に残っていると、微妙に言動に変化が出てきて、本人は意識したつもりはなくても周囲の人から見ると「アイツ何か微妙に変わったな」と映ることがある。その微妙な変化は周囲への刺激になり、他の人たちを活気づけるキッカケになる。中堅社員は会社のヘソ。ここが弱いとトップの思いは現場の若手には伝わらないし、現場の状況がトップに伝わらず、企業はどんどん弱っていく。そして彼らのうち何人かはいずれ幹部になっていく。人手不足に悩む企業は多いが、具体的な対策が実行できていないなら、まず、中堅社員教育に予算と時間をかけることを検討してみて頂きたい。(2025年4月24日)