若手経営指導員研修での「問いかけと傾聴」
9月中旬、西日本のとある商工会連合会で、県内に配属されている若手経営指導員の方々の3日間研修会があり、その講師を担当してきました。この10年間くらいは商工会や商工会議所からの依頼のほとんどがベテラン経営指導員の研修講師だったのですが、今年は何故か複数の商工会連合会から若手経営指導員を担当して欲しいと依頼があったため、ご担当者にその背景をお聞きしてみると、若手の経営指導員は一般世間と同様にすぐに離職する人も多く、また当然ながら社会人としてのキャリアも浅いため、各配属先に育成を任せるだけでなく、一同に集めて力を入れて育成していきたいということでした。
若手に対してはやや難易度が高いかもとは思いましたが、中手企業庁が令和5年から推奨している「プロセス・コンサルティング」の手法も織り交ぜながら3日間のプログラムを進めました。
プロセス・コンサルティングとは支援者(コンサルタント)がアドバイスしたり専門業務を代行したりする専門型コンサルティングとは異なり、お客様自身が課題の本質に気づき、お客様自身が課題を解決できるよう支援するアプローチです。具体的には3つのフェーズがあり、その最初のフェーズは「経営者との対話」です。対話とは「問いかけ」と「傾聴」を織り交ぜたものですが、このスキルが高まると相手に大きな気づきを与えたり、問いかけに答えていくうちに断片的な情報が整理できて、モヤモヤしていたものがクリアになって意思決定に繋がっていくのです。そしてこの対話が相手にとって価値のあるものになれば「この人に今後も相談したい」という気持ちを持ってもらえ、コンサルタントにとっては大きな仕事の受注に繋がるのです。
今回、若手経営指導員の方々にこの対話ロールプレイ演習を実施(私が経営者の役割を演じて)したのですが、そこで驚いたのが「ベテランの経営指導員よりもうまい人が多い!」ということです。
ベテランになるほど、相手の話を途中で遮ってすぐにアドバイスをしたり、過去に類似した課題に直面していた企業の事例を出して、こうやれば解決できると断定したりする人が増えてくるのです。また自分勝手な思い込み・推論を前提とした意見を言ったりする人が増え、対話というよりも一方的な説明や説得になってしまうのです。経営者から信頼してもらおうという気持ちが前のめりになり過ぎて、経営者からみると「この人、俺の状況をわかろうともしないんだな」「よく知らないくせに知ったかぶりしているな」という印象を与えてしまうのです。
アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)スローンスクールのエド・シャイン博士が書籍「謙虚なコンサルティング」でも強調していますが、「経営課題を解決できるのは、その組織の人であって、支援者ではない」という大前提に立てば、こちらが考えた解決策を押し付けるような姿勢ではなく、謙虚に問いかけ、謙虚に傾聴し、その組織の状況を教えて頂かない限り、最善の支援策は何かを判断しようがないのです。
経験を重ね、ベテランと言われるようになってくると、この謙虚さを忘れてしまうのかも知れません。私自身も数年前、顧客先の役員の方々との面談(大事なセールス面談でしたが)の中でつい喋り過ぎてしまって、決まって当然と思っていた仕事を失注した痛い思い出があります。その反省も含めて申し上げていますが、ベテランのコンサルタント、ベテランの士業の先生は、ぜひ「謙虚な対話」で経営者の心を掴み、経営者自身が課題解決に向けて動き出すことを後押しして導いて頂きたいと思います。(2025年9月)