「安易なカスタマーハラスメント対策が経営危機を招く」 ~皆がハッピーになる対策に切り替えよう

 2022年2月、厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表しました。不当・悪質なクレームが従業員に過度に精神的ストレスを感じさせるとともに、通常の業務に支障が出るケースもみられるため、企業は従業員を守る対策が必要という考え方が背景にあります。続いて、2023年には旅館業法が改正されカスタマーハラスメントを繰り返す顧客を宿泊拒否することができるようになり、ホテル・旅館業が次々とカスタマーハラスメント方針を発表。JALとANAは共同して2024年6月に「カスタマーハラスメント」に対する方針を策定し発表しています。
 しかし、考えてみてください。

Q. それだけでカスタマーハラスメントがなくなるでしょうか?従業員を守れるでしょうか?
Q. 経営にマイナスになることはないでしょうか?
Q. そもそも、なぜカスタマーハラスメントが起きたのでしょうか?

 エア・カナダでのつい先日の出来事です。離陸前に機内が寒いため毛布を要求した顧客とCAとが口論になり、CAはカスタマーハラスメントと見なして警察に連絡。飛行機は駐機場に引き返しその乗客は降機を命じられたのです。ところがその一連のやり取りを見ていた他の乗客も搭乗をボイコットし全員が降機したため、その便は欠航となってしまいました。これは何を示唆しているでしょうか?もしかするとCAの対応は顧客を怒らせる酷いものだったのではないでしょうか?一部始終を見ていた他の乗客まで降機してしまい、航空会社は多くの顧客を失いました。この会社は何かを変えないと、この先の経営は続かないのではないでしょうか?

 以前からクレームのメールや電話が絶えず、それが原因で乗務員がすぐに辞めてしまうという悩みを持っていたとあるバス会社で、各事業所から選出して頂いたリーダーの方々を対象し「サービス指導者研修6回シリーズ(半年間)」を担当させて頂いたときのお話です。全6回の最終日でお邪魔した際に、ご担当から「クレームのメール・電話が以前の半分になり、逆にお礼のメールが2倍になりました!」という嬉しい報告があったのです。

 自慢話をしたいわけではありません。2000年前後に世界中で話題になった「顧客満足経営」のエッセンスを活用しながら「最近お客様からどんな苦情があったのか」「どう対応して、どうなったのか」「クレームにはならなくてもお客様が不満や不安を感じそうな点はないか」などを皆で話し合って頂きました。そして設備に関わることは上層部に提案し、そして顧客接点の現場(運転中)ではマナーとしての言葉遣いや態度、アナウンスのタイミングや話し方などはどうあるべきかを話し合い、それを正解と見なしてご自分の事業所で率先垂範し、かつ他の社員に指導して頂いたのです。数字はその結果でしかありません。結果が早く出たのは選ばれたサービスリーダーの方々が非常に優秀で、素直で、熱意を持って現場でリーダーシップをとって頂いたことだと思っています。当時はカスタマーハラスメントという表現はなく、モンスタークレーマーという言葉が使われていましたが、上記の取組みでクレーマーは激減しました。乗務員は感謝のメールが増えただけでなく毎日乗客から感謝されたり明るく挨拶されることが増えたりでモチベーションも高まりました。本社でも事業所でも以前に比べて笑顔で声を掛け合う姿が目立つようになりました。

 人手が足りなくて困っている経営者がカスタマーハラスメントから従業員を守りたいと思う気持ちはわかります。ただ「カスタマーハラスメント対策」を決めて発表することでハラスメントは減るでしょうか?大声を出す顧客がいたら警察を呼んで、以降は出入り禁止にすることが効果的でしょうか?

 このセミナーがご自身の会社のカスタマーハラスメント対策を見直すキッカケとなり、顧客も社員も、そして経営者もハッピーになる施策を再考する場になればと思っています。

 (経営者・経営幹部対象セミナー・標準3時間)
1.セミナーのねらいと進め方
2.カスタマーハラスメントの現状、カスタマーハラスメント対策の現状
3.自社におけるカスハラと現状での対策
  (個別ワークとトリオで意見交換)
4.顧客満足経営の実践事例(バス会社・百貨店その他)
5.自社では今後どうするか?それは効果的か?実践の障害になりそうなことは?
6.まとめ